シャインマスカット園で、何やら不穏な雰囲気があるようですね。
今日は、農業経験者、水景から見た今回の「異変」のお話です。
私、水景は学生時代のバイトでりんご農家さんにお世話になってました。
初めは、初心者でもできる軽作業ばっかりでしたが、
2年目以降は、バイトには普通はやらせない高度な作業も任せてもらい、
おかげで果樹栽培のイロハを教えていただきました。
今では、その時の技を活かして、
先日、ちょろ〜んと書いたハスカップ栽培に応用して毎年豊作です♪
さて、本題のシャインマスカットですが、
実際はどう栽培しているのかは分かりませんが、
果樹園、それも大規模栽培ともなると、真っ先に思い当たるのは「挿し木」。
植物って本当に不思議なもので、
枝1本切って土に差すだけで、根っこが生えて、新しい枝葉が出るんですよねぇ。
これを挿し木といって、最も安価かつ手軽で、苗の生育状況も揃えられるので
昔から様々な果樹で使われてきた栽培方式です。
ただ、この挿し木、1つ決定的な弱点があるのです。
枝1本から増やすということは、増えた苗はいわば「クローン」。
つまり、DNAの塩基配列パターンが完全に一致する「もう1人の自分」。
これの何が問題か。それは、受粉。
植物にとって、受粉は、哺乳類でいうところの受精と同義であり、
果実は、哺乳類で言えば、子そのもの。
これを挿し木で増やしたクローンでやると、「自分&自分の子」となるわけで。
ヒトの世界で言うところの近親婚的な状況になっているわけです。
人間は法律等の規制で、近親婚を禁じていますが、
生物学的に見ても、他の哺乳類も近親婚は、基本はしないそうです。
特に、イヌやネコは肛門腺という器官からフェロモンを出しているのですが、
近縁種同士のフェロモンは本能的に受け付けないのだとか。
ブリーダーとか多頭飼いの特殊な環境で、
他に雌雄がいない状況ならば、子もできるらしいですが、
仕方なくというのが、彼らの動物的な感覚なのだとか。
近縁種同士での交配は、
平安時代などの大昔ではヒトもしていたそうです。
貴族同士の家柄を守るためとか、そういう理由で、姉弟で結婚したりとか。
しかし、生物学的視点から見ると、
動物が近縁種同士での交配を嫌うのには、「遺伝性の疾患を回避する」という
生物の生存本能に基づく切実な理由があるからだというのが主流なようです。
あるDNA型(分かりやすくA型にしますか)を持つオスをA、メスをBとした時、
AとBとの子のDNA型もA型になるのが、メンデルの法則に則ったパターン。
が、このA型がある病気に弱いという体質を持っていたとします。
すると、A型のDNAを持つ者は全員、その病気に弱い体質ということ。
一方で、別のDNA型(B型とでも呼びます)を持つCという個体と交配すると、
AとCの子もBとCの子も、A型からはちょっと離れたDNA型になるはず。
これは、B型という別のDNA型が混ざったことで、A型の血が薄まったから。
そうすると、この場合の次世代個体は、A型が弱点としている病気を
克服できる可能性を持っているということが言えるのです。
これが、生物学的視点から見た
近縁種同士での交配を本能的に拒絶する理由です。
ここまで、お読みになった方は、もうお分かりですよね?
挿し木で増やした苗木を、クローンと呼ぶならば、
DNA型も完全に一致しており、その間の交配をしてもDNA型は同じ。
もし、このDNA型がある病気に弱いとしたら・・・?
長々と説明しましたが、まぁ、挿し木のリスクはこういうことなのです。
実際、挿し木栽培で、遺伝性の病気で栽培に失敗した例は、
1950年代に流行した、パナマ病。
簡単に言ってしまうと、バナナを挿し木のような複製栽培をしていたら、
その遺伝子配列がパナマ病に弱い形質であったがために流行したらしいのですが、
遺伝子配列次第で病気への耐性があるかどうかというレベルの話になると、
同じDNA型を持つ複製栽培した苗木は、全滅するのが自然の理なのです。
今回のシャインマスカットがどんな栽培手段をとっていたのかは、
わかりませんが、このような複製栽培をしていた可能性もあるとは思います。
数本の苗木が病気で、とかではなく、全部が全部病気になったのには、
やはり何らかの遺伝性の病気に晒されている可能性もあるのかなと。
ともかく、この件は、果樹園の全ての苗木の組織を採取して、
病理検査を徹底的にやらないと、対策のしようもないだろうなと思うのです。